ビジネスリーダーの皆さんは、気を配る要素や範囲も多く、ストレス要素は職位が上がるほど必然的に多くなってきます。ストレス発散や解消など様々なストレス対策がありますが、マインドフルネスの実践ではストレスに対するレジリエンスを高め、自身の感情をマネージメントするスペースも確保できるようになります。
今回は『最先端のストレス対策』として自律神経系を整える重要性と、マインドフルネスとメンタルケア、サイコセラピーなどの領域と連動して進化しつつある新理論・ポリヴェーガル理論についてわかりやすくご紹介していきます。
この革新的なアプローチで自律神経を整え、ストレスに対するレジリエンスを高めましょう。
目次
マインドフルネスは心身のレジリエンスを高める
マインドフルネスによってレジリエンス (回復力) が高まると、ストレスに対する以下のような肯定的な作用があります。
1, ストレス反応の緩和:マインドフルネスの実践は、ストレス状況におけるストレスホルモン(コルチゾール)の分泌を抑制する働きがあります。これにより、ストレスによる生理的・心理的負荷が軽減されます。
2, 情動の調整:マインドフルな気づきの状態では、ネガティブな感情を受け入れながらも、その感情に同化することなく冷静に対処できるようになります。ストレス状況でも、感情の揺れに流されにくくなります。
3, 認知的柔軟性の向上:マインドフルネスは、思考のパターンを柔軟に切り替えることを促進します。ストレス状況でも、物事をより建設的な視点から捉え直すことができるようになります。
4, 注意制御能力の向上:マインドフルネスの基本は、今この瞬間に意識を向けることです。これにより、ストレス刺激に惹きつけられずに、適切に注意をコントロールできるようになります。
5, 自己調整能力の向上:マインドフルな自己観察を通じて自己認識が深まり、ストレス対処に役立つ適応的な行動を選択できるようになります。
つまり、マインドフルネスによるレジリエンスの高まりは、ストレス反応を調節し、より建設的な対処を可能にします。
レジリエンスを高めるためには自律神経のケアが不可欠
私たちは日々、様々な状況に遭遇します。例えば職場では上司から厳しい指摘を受けたり、プレゼンテーションの前には緊張したりします。そういった時、体は自動的に対処する神経システムを使い分けています。これが自律神経です。
後述するポリヴェーガル理論では、この自律神経に3つのモードがあると説明しています。人間は後述する3種類の自律神経を使い分けながら、環境や状況に応じて最適な反応を選択しています。例えば、体が「安全」と感じれば休息モードになり、「危険」を感じれば防御モードに切り替わるのです。つまり、この3つのモードをうまく使い分けられるよう、自律神経のバランスを整えることが大切なのです。
また、自律神経の状態は、私たちの感情や思考や行動に大きな影響を与えます。逆に言えば、感情や思考や行動を変えることで、自律神経の状態も変えることができます。したがって、自律神経のバランスを整えることは、心身の健康や幸福にも大きく関わっています。
さらにポリヴェーガル理論を提唱したポージェス氏はマインドフルネスとの関連で『コンパッション・慈愛を体験するには、自律神経系が安心・安全を感じられる状態になる必要がある』と言っています。きっと近い未来、神経系の活性化状態を測定することによって心理的安全性(集団や組織における安心感)も数値化できるようになるのでは?と個人的に思っています。
【神経生理学】自律神経の新理論:ポリヴェーガル理論が示す3種類の自律神経
ポリヴェーガル理論とは、アメリカの神経生理学者 ステファン・W・ポージェス氏が提唱した自律神経の新しい考え方で (Porges SW. Psychophysiology. 1995)、和訳すると多重迷走神経理論となります。(迷走神経:脳の延髄から腹部にまで到達する神経の一つ)
ポージェス氏は心理学と生物学の二つの博士号を持つ二重専門家であり、自律神経と社会的行動の関係に関する研究で知られています。彼の研究は、トラウマや不安障害、自閉症スペクトラム障害などのメンタルヘルスの分野にも大きな影響を与えています。
彼が提唱したポリヴェーガル理論では、自律神経には交感神経と副交感神経の2種類だけでなく、副交感神経にはさらに2種類あり、人間には計3種類の自律神経があると主張しています。
この理論が学会で報告されてから2-30年が経ちましたが、神経学、脳神経研究や心理発達などの分野で最近益々注目を集めています。またポリヴェーガル理論の本が翻訳されたこともあり、ここ数年で日本でも認知が広がってきていています。人間の進化や社会性、感情やストレスなどにも関係しており、トラウマ体験やPTSDなどの治療にも応用できると期待されています。
自律神経系の分類
自律神経とは、個体の意思に関係なく刺激に反応して身体の機能を調節する神経系です。例えば、心拍数や血圧、消化や代謝、体温などは自律神経によってコントロールされています。自律神経には、興奮や活動を促す交感神経と、リラックスや回復を促す副交感神経の2種類があります。
交感神経
日中の活動や仕事モードに入っているときに働く自律神経です。緊張や興奮のほか、戦う・逃げるモード、活動を促し仕事に集中しているなど良い状態なども含まれます。
仕事中は偏り過ぎず、交感神経(集中)と副交感神経(休憩)を交互に行ったり来たりしているのがベストな状態です。
副交感神経
リラックスやブレーキ、休憩中や夜寝る前などに活性化し、心身の回復を促します。
ポリヴェーガル理論が示す3種類の自律神経
ポージェス氏はポリヴェーガル理論で、副交感神経にはさらに2種類あるということを主張しています。それは、背側迷走神経と腹側迷走神経です。
迷走神経とは、古くからある脳神経系の分類で、ローマ数字のIからVII分けた際の第X脳神経に相当し、主に頭部や頸部,胸部,腹部(骨盤を除く)の内臓の知覚・運動・分泌に作用し、副交感神経の代表的な神経線維です。
ポリヴェーガル理論の、リラックスを担う副交感神経に2種類あり自律神経は3種類に分類されるという主張は、人間が長い進化の過程で獲得してきた適応的な反応システムだと考えられています。現在も進化生理学の研究とも連動して、科学的にも証拠が集まり明らかになりつつあります。
2種類の副交感神経の特徴と役割
背側迷走神経
背側迷走神経は、爬虫類から存在する進化的にも古い神経系で、生命の危険に遭遇した時に作動する防御モードです。背側というように背中側の部分を通っている副交感神経で、一人で休んだり眠ったりするときに活性化し、身体を低エネルギー状態にすることで生命を維持する役割があります。
背側迷走神経はリラックスに関わる副交感神経の一種ではありますが、過度に活性化し過ぎると良くないと言われています。具体的には、シャットダウン、無関心、何もしたくない状況に陥っている時、無気力、鬱っぽくなっている時は、背側迷走神経が極端に強化している状態と考えられます。これは、危険な状況から逃れるために身体を麻痺させたり気を失わせたりする、凍りつき反応やフリーズ反応と呼ばれるサバイバル戦略です。
腹側迷走神経
腹側迷走神経は、哺乳類が進化する中で獲得した社会的相互作用に関わる新しい神経路です。他者と交流やコミュニケーションしたり協力したりするときに活性化します。この神経は、前・腹側を通る神経系が担い、顔面・顔の表情や発声などが活性化状態に影響します。つまり顔や声などの表現や受容を通じて他者や社会的なつながり・関わりを作ることで安心感や安全感を生み出すリラックスに関与します。
人間は他の動物種と比較しても社会的なつながりを育む生き物であり、人間同士が安心安全のサインを常に送り合うことによる、社会的関与反応やテンダー・ビーフレンド反応と呼ばれるサバイバル戦略とも言われています。
よって以前ご紹介した、生き残るためのサバイバル本能の名残である闘争逃避反応なども、腹側迷走神経を活性化させ他者とのつながりの中で安全・安心を感じられる状態を作ることができると落ち着いてくる、沈静化するとのことです。
各自律神経の活性化状態を知り、セルフチェックする
以前『ストレス反応を引き起こすメカニズム』でお伝えした通り、外部からストレス刺激を受けると引き起こされるストレス反応経路には、①脳-内分泌系を介するHPA軸と②自律神経系を介するSAM軸の2種類があります。
自律神経系は自分の意思に関係なく(不随意)刺激を受けると活性化するので、ストレスで自律神経が疲弊していても自分では気づきにくいことが特徴です。つまり、自律神経のどちらか一方だけが過剰に活性化している状態が続くと心身の不調につながるため、交感神経と副交感神経のバランスを取ることが重要です。
そこでここからは、それぞれの自律神経が活性化しているときはどのような状態なのか、バランスをとるにはどうしたら良いか?など具体的な例を元にお話ししていきます。
ポリヴェーガル理論が示す、3種類の自律神経系の活性状態が現れやすい部分として、声、姿勢、呼吸、視線、表情などが知られています。以下の表に各神経系が活性化した時の状態をまとめましたので、これらを元に、今のご自分の自律神経の状態をセルフチェックしてみてください。
背側迷走神経 | 交感神経 | 腹側迷走神経 | |
声 | 小さい、抑揚がない ゆっくり、息が続かない | スピードが速い 固い声、クレーマー | 穏やか、抑揚する、 心地よい |
姿勢 | 崩壊、不動 | 準備、警戒 | 重力に従ってリラックス |
呼吸 | 浅く遅い | 浅く速い | ゆったり、ジューシー |
視線 | 定まらない、ぼーっとしている | 集中、視野が狭い | 柔らか、視野が広い |
表情 | 無表情 | 硬くこわばる | 豊か、感情が目に出る |
例えば背側迷走神経が過剰に働きすぎると、声量は小さくなり、発声は抑揚がなく、ゆっくりで息が続かない。姿勢は崩れてきて、呼吸は浅く遅くなってきます。
交感神経が活性化している場合は、声・会話はスピードが速く、行き過ぎるとクレーマーのようになります。姿勢は準備、警戒の状態。呼吸は浅くて速い。視線は集中して視野が狭い。表情は硬くこわばっています。
腹側迷走神経が活性化しているときは、声は穏やかで抑揚があり心地が良いです。姿勢は重力に従ってリラックス。呼吸はゆったり。視線は柔らかくて視野が広く、表情が豊かで、感情が目に出ます。
マインドフルネスでレジリエンスゾーンを広げる
レジリエンス(resilience)は元は物理学用語で「外力による歪みを跳ね返す力」として使われました。精神医学ではボナノ(Bonanno,G.)が2004年に述べた「極度の不利な状況に直面しても、正常な平衡状態を維持することができる能力」、心理学では
- ストレスに対応し、回復する
- 逆境に直面しても、回復力を持って立ち向かうことができる能力
といった意味で用いられることが多いです(wikipediaより)。レジリエンスは生まれつきのものではなく、練習や経験によって身につけることができます。
レジリエンスゾーンとは
レジリエンスゾーンとは、覚醒しすぎず、でも意欲は低過ぎず、という自分の感情や意欲、身体の状態が適切な範囲内にある、自律神経のバランスが整った状態のことです。レジリエンスゾーンにいるときは、ストレスに対処できるだけでなく、創造性や集中力も高まります。逆に、ストレスの高い状態が続くと意欲の振れ幅が大きくなり、心身に悪影響が出てしまいます。
マインドフルネスは、自分の感情や身体の状態に気づき、それを受け入れることで、ストレスに適切に反応できるレジリエンスゾーンを広げる効果があります。つまり、マインドフルネスを実践することで、自律神経のバランスを整え、調整能力を高めることができると言われています。
レジリエンスゾーンを広げるために必要なこと
背側迷走神経を育む
- 1人で休憩をする(食べる、寝る、休む等)
- 腎臓へのタッチ。
背側迷走神経と主に関わると言われている腎臓は、解剖学的には背中側の腰のあたりに2つあり、ここに手を置いて腎臓を緩める、温める意識を持つと良いです。日本語でも『手当て』と言う様に、科学的な証拠は未だないものの、手を当てるだけで緩んだり癒される効果はあると考えられています。
また東洋医学では、数千年前から腎臓は心身の健康に重要と言われています。湯船、カイロや湯たんぽ等で背側の腰の辺りの腎臓周辺を温めるだけでもリラックス効果が実感できるはずです。
腹側迷走神経を育む
- 声、表情を使う。
子供は顔の筋肉がしなやか・柔らかくて、表情が豊かですよね。ある意味、子供は腹側迷走神経を上手に使う先生でもあるので、真似して表情柔らかくしたりしてみてください。付き合うなら表情や声が柔らかい人の方がいいですよね?このような相手との関係性だけでなく、自分のためのストレス対策、寿命を延ばすための行動療法だと思って顔の筋肉と表情を緩めてみてください。表情柔らかくすると腹側迷走神経と連動してリラックスでき、自分の心身の健康にとっても良い効果があるので、積極的に意識してみてください。
- 手を握る。
軽くおにぎりを握る位の感じで両手をグーパーグーパーと握ってみてください。例えば指先の怪我は特に痛く感じることからも、手にはたくさんの神経が通っています。すごく緊張して交換神経優位とか、やる気が出ない無気力という時に手を握る動作を意識的に30秒から1分やってみると、落ち着いたり神経系が整ってきます。 - いくつかのものを「見る」
パニックになりそうな時、やばいって感じた時に、周りを見渡してみて視線をぱっぱっと切り替えながら、その場にある色々なものを見てみてください。
例えば部屋の中なら、エアコンを見る、パソコンを見る、椅子を見る、ちょっと遠くの何かを見る、などなど。見る対象物を5-10個とやってみると神経系が整ってくるんです。レジリエンスゾーンを外れてしまってどちらかに振れてしまった時にやると効果的です。 - ハートに手を置く
まさに腹側、胸、お腹ですね。お腹の位置(肋骨の下部)は解剖学的には横隔膜に相当します。緊張やストレスで呼吸が浅くなっているときは横隔膜も緊張してしまっているので、手を置いて意識することで緩めてみてください。 - 歌を歌う。
腹側迷走神経は顔の表情や発声と関連すると先ほど書きましたが、歌が好きな人は歌を歌う、そうでない人でも、あーとかうーとか声を出してみる、唇を震わせるとかも効果があります。 - 遊ぶ、好きなことをする
童心に帰って遊ぶ、音楽、ダンス、ヨガなど。
この辺は神経系が緩んでリラックスすることにも効果があります。
<実践>神経系の緊張を緩める3分間瞑想
これらの迷走神経を育む行動やマインドフルネス瞑想を行うことで、神経可塑性によって神経回路全体が良い状態に変化していき定着する、レジリエンスゾーンもどんどん広がってくる、ということがわかっています。
そこで今回は神経系の緊張を緩める瞑想ガイドとコツを録音しました。お仕事終わりなどにぜひ実践してみてください。
Source : 瞑想チャンネル for Leaders