心の自由を手に入れる – 多忙なビジネスマンにこそ勧めたい 『何もしない瞑想』

 ビジネスリーダーのためのマインドフルネス24講の最終回になります。
 今回はマインドフルネスの基本である「無」「観照」という仏教的な視点から出発した瞑想法「何もしない瞑想」のバックグラウンドや実践することで得られる効果をご紹介していきます。具体的な瞑想法はとてもシンプルで簡単で、マインドフルネスの基本に+αでいつでも行えるものです。瞑想ガイドも最後にご紹介しています。

『何もしない瞑想』とは?

Source : Amazon

 この「何もしない瞑想」は、GoogleのSIY (Search Inside Yourself) のプログラムでも取り入れられている方法です。

 まずは、今この瞬間、自分の心に去来することは何かについて考えてみてください。
 例えば、思考や考えが頭を巡る人はそれに気づき、体の感覚や周辺の音に気を配ることも大切です。
 復習ですが、マインドフルネスは今この瞬間に心を集中させ、判断をしないでありのまま、という在り方です。今回の話は、特に集中の後の『ありのまま』に気づくことがテーマとなります。


自分の本当の姿に気づく「真我」の探求

 先ほどお伝えしたように、「何もしない瞑想」はGoogleの基本瞑想の一つで、「あなたの仕事は気づくだけです」というものです。一応目は閉じますが、「なんか呼吸をしているなぁ」とか、「こう考えてるな」「なんか気になるなぁ」「体がこんな感じだなぁ」など、何が起きても良くて、起きていることに気づく練習をしていきます。

 仏教、ヒンドゥー教やインド哲学の中心的な概念にアートマン (意識の最も深い内側にある個の根源)という言葉があります。日本語では真我と訳されます。
 これは普段の私たちが認識しているアイデンティティ(自己同一性)とは異なる考え方で、本当の自分、本性、存在、真我というものは一人一人の中にある、という考え方です。


真我に近づくための問いかけ

 こう言われても、いきなりマニアックすぎて意味不明かもしれませんが、わかりやすくするための『真我を見つけるための問い』があります。これもちょっと禅問答的な問いなんですけど

「あなたは誰ですか?」
「観察しているのは誰ですか?」

です。
 この問いの答えとしては例えば、今このことに気づいてるのは私です。もっと細かく言うと、マッケンです、職業は何々で、男性で何歳ですみたいな。必ず答えはいくらでも出てきます。いわゆる一般的な皆さんがご存じのアイデンティティ(自分は何者か)みたいなものですね。
 このように私たちの通常のアイデンティティは、何かしらと紐づいています。一方、何ものにも紐づかない本質こそが真我(アートマン)と考えられています。


今ここにある自分を観察する主体は誰か?

 「では、その答え(見られるもの、アイデンティティ)に気付いてるもの(見るもの、観察者)は誰ですか?」
と考えていくと、これが在り続けるという事になります。インドの哲学では「見るもの」と「見られるもの」の「見るもの」を真我と捉えます。
 このように、「気づいているものは何者か?」と自分自身の内側に意識を向けることで、自分自身の本来の姿・真我を見つけることが可能となります。

 私たちは朝起きた時から寝るまで、ほぼ常に「見られるもの」つまり対象を見ていますが、本当の『自分』は今ここで働いている「真我」だった、といった気づきもあります、というのがインド哲学の考え方です。

 こういった考え方に意識を向け真我に気づくことは、悟りや覚醒に近づくプロセスでもあります。


意識を覚醒させるステップ

 以前にもご紹介したアメリカの現代心理学者で哲学者のケン・ウィルバー氏は、「意識状態の覚醒」と「瞑想のステップ」といった段階が存在すると述べています。

 ウィルバー氏は意識の覚醒ステップを4〜5の段階に分けて説明しています。最初の段階はグロスで客観的な思考であり、普段我々が仕事で使っているような思考です。
 その次の段階のサトルでは、もう少し潜在的な感情や感覚を扱います。
 それに対し、今回の『気づき』は次の段階のコーザルと呼ばれ、これは思考モードから気づきモードへの移行を指します。

 我々は「〇〇と考えているのは自分だ」というところに入り込みがちです。この状態は、良い時には問題が解決されますが、悪い時には自分が考えと一緒になって苦しくなることが起こります。しかし「それを考えていることに気づいている」という状態になると、考える主体が「自分」ではなくて「それに気づいている自分」になります。この気づきモードへの移行は、日々の瞑想やマインドフルネスの継続によって得られます。

 最終的には、禅や座禅などの体系で言われる覚醒や悟りの境地に達するとされています。これは「見るもの」と「見られるもの」が一体となる状態、統合された状態とも言われます。

『何もしない瞑想』で純粋な気づきと一体になる

 この練習は、ただ気づくことだけを行うというもので、何かをする必要はありません。初めは、ただ気づくだけでOKです。
 普段 私たちが抱えている悩み、不安やストレスから解放されるためには、自分自身がどのように囚われているかをまず知って、『自分』という小さなところから少し自由になることが重要です。この「何もしない瞑想」でありのままに気づき続けることは、それらから脱する練習にもなります。

 GoogleのSIY(Search Inside Yourself)プログラムで最初に教えられる基本的な瞑想の一つが「何であれ気づくだけでOKです」という練習です。文末には何もしないでただ気づくことを練習するための音声ガイドも載せましたので、ぜひやってみてください。

 集中瞑想で集中力が鍛えられて安定した状態を作ってから、この気づき続ける練習を取り入れると、より効果が発揮できるとされています。よってマインドフルネスのレッスンでは、集中瞑想をやった後に、何もしないで起きていることに気づき続ける瞑想を順番にセットで行います。

 またこれは目を開けたままでも練習できるので、ちょっと気づきのモードに入ろうと思った時に、ただぼんやりしているのでも、
いろんなことを考えている、
「こんな風に感情が入るんだな」
「自分が囚われているな」
といったことにも気づくことができ、自分自身をより平静な状態に導くことができます。

 そして最終的には、アイデンティティが「見ているもの」『観照』に移行していくと、さらに気持ちが楽になっていくでしょう。この練習を続けることで、自然とそういった効果や結果がついてくるはずです。

忙しくても心の自由を感じることができる理由

 日常の中で気付くことができれば、現実の制約や囚われた感覚を感じる場面でも、それそのものに気づくことで自分自身が自由である、という気づきに繋がります。

 現実には、制約が多いと感じることもあるかもしれませんが、縛られていると気づいた時からその制約に縛られていない自分自身が存在する、自由であるということに気付くことができます。
 すると現実の制約を肯定しつつも、変えていくための選択肢を増やし、常に持てるようになります。

 その結果、これまでリーダーシップに必須とお伝えしてきたセルフアウェアネス(自己認識力)も格段に高まり、リーダーシップの向上にもつながり、次のアクションを取りやすい状況につながると思います。

【実践】心の自由を得るための瞑想 無・観照(7分間)

 このガイドでは、ただ純粋に気づくことを目的とした気づきのトレーニングを行います。
 実はこの練習は、リーダーの心の平穏を高めるとても意義あるものです。 自分が何を考えていたり、何をしてしまったりしても、それらさえ、揺らぎなくそれを冷静に観察できる視点を持つことができます。
 そのような視点への移行は、マインドフルネス・トレーニングの成果の一つと言われ、昨今のリーダーシップ論で参考にしている成人の発達論においても、重要な要素とされています。
 この瞑想では、前半に呼吸に集中し、後半では呼吸への集中すらも手放す瞑想をガイドしています。

Source : 瞑想チャンネル for Leaders

 以上でビジネスリーダーのためのマインドフルネス24講全て終了です。心理学や脳科学など様々な観点から幅広くお伝えしましたので、読んでマインドフルネスに興味を持っていただき、実践していただけたら幸いです。

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ABOUTこの記事をかいた人

大阪大学大学院博士前期課程修了。認定プロセスワーカー。臨床心理士。 瞑想経験20年以上。 マインドフルネス瞑想の土台でもある、10日間のヴィパッサナー瞑想リトリート(※)に15回以上参加。タイ、インドにて長期トリートで修行を積む。  深層心理学のユング心理学にルーツを持つプロセスワークの専門家。身体性やマインドフルネスを早くより研究、実践し、個人の心理のみならず、関係性やグループ、組織を対象に仕事をしている。ビジネスシーンにおいては、プロセスワークのコーチングや、組織開発やコンサルティングに従事。企業におけるマインドフルネス研修や、大手フィットネスクラブのマインドフルネス・プログラム開発や指導者養成も行う。著書に『日本一わかりやすいマインドフルネス瞑想"今この瞬間"に心と身体をつなぐ』BABジャパン2015、共訳書にアーノルド・ミンデル著『プロセスマインド』春秋社2013、ジュリー・ダイアモンド著『プロセスワーク入門』などがある。

(株)BLUE JIGEN 代表取締
バランスト・グロース・コンサルティング(株)取締役
(一社)日本プロセスワークセンター ファカルティ
日本トランスパーソナル学会 常任理事

(※) 10日間 話さずに座り続けるもの