静かな部屋で目を閉じ、呼吸に意識を向けた瞬間——
突然の吐き気、めまい、あるいは説明のつかない不安感。マインドフルネス瞑想中に、こうした不快な体験をされた方は決して少数派ではありません。
本記事では、瞑想歴20年以上でビジネスマン向けのマインドフルネス・セミナーも実施されている松村憲さんと小島美佳さんの対談を通じて、マインドフルネス瞑想における不快感の正体と、科学的根拠に基づいた具体的な対処法を明らかにしていきます。
目次
マインドフルネス瞑想で多くの人が不快な体験をしているという事実
最近の研究では、定期的な瞑想実践者の約25〜32%が、何らかの不快な体験に遭遇していることが明らかになっています。(Schlosser et al., 2019 ; Pauly et al., 2021 ; Goldberg et al., 2021)。これらの体験の多くは一時的なものですが、不快な影響には、不安、トラウマの再体験、感情的感受性などがあります(Goldberg et al., 2021)。
しかし重要なのは、大多数の実践者は、不快な体験を経験しながらも瞑想を継続し、最終的には「実践してよかった」と評価している希望的な事実が研究で示されている点です (Cebolla et al., 2017 ; Goldberg et al., 2021)。
この記事では、特に以下の3つの観点から、その本質に迫ります:
- マインドフルネス瞑想中の「気分の悪さ」の実態と種類
- 不快感が生じるメカニズムとその意味
- エビデンスに基づいた効果的な対処法
マインドフルネス瞑想をより安全で持続可能な実践へと進化させるための、具体的な指針が得られるはずです。
マインドフルネス瞑想中に気持ち悪くなった体験
小島美佳:これまで20年以上の自分自身の瞑想経験を振り返ると、様々な不快症状に遭遇しました。
最も多いのは、気持ち悪さや吐き気、咳が止まらなくなるといった身体症状です。時には恐ろしいイメージが浮かんでくることもあります。このような状況で「評価判断しない」状態を維持するのは、非常に困難ですよね。
実は私自身も、瞑想中に体の痛みや不快感を経験することがあります。そんな時は「痛いな」と観察を続けますが、痛みが消えないまま終わることもあります。これは珍しい経験ではありません。
また、気持ち悪さとは少し異なりますが、瞑想中に寝落ちしてしまったこともあります。自分の潜在意識が何かを拒否していたのかもしれません。s子さんは、どのような体験をされましたか?
s子:私も最近、一人で瞑想を始めてみたのですが、やはり気持ち悪くなってしまいました。特に印象的だったのは、長年抑え込んでいた感情が突然噴き出してくる体験です。
小島美佳:s子さんのような経験は、実は好転反応の可能性も考えられます。感情の解放は、時として不快を伴いますが、それ自体が癒しのプロセスの一部かもしれません。
s子:そうなんですね。ただ、一人で実践していると、この不快な状態をいつ終わりにすればいいのか分からなくなります。オンラインガイドがある時は明確な終了の指示がありますが、一人の時はどうしたらよいでしょうか?
小島美佳:なるほど。一つ重要なポイントとして「止め時」の問題が浮かび上がってきましたね。松村さんはどう思われますか?
瞑想中の気持ち悪さへの具体的な3つの対処法
松村憲:そうですね、特に一人で瞑想を行う際は、以下の3つのポイントが重要です。
1, 時間設定による安全性の確保
松村憲:瞑想の止め時は確かに重要です。この点は瞑想を始める前に明確な時間枠を設定することで、心理的な安全性が高まり非常に効果的です。初めは10分から15分程度が適切で、その範囲内で集中を維持するのがよいでしょう。
s子:以前の『マインドフルネスのデメリットについて考える』という記事で、瞑想後にかえって不快感が増し、「もうマインドフルネスは嫌だ」と諦めてしまう方が多いという話がありましたよね。
松村憲:そうですね。
重要なのは、たとえ気分が悪くなっても、決めた時間内は集中を続けてみることです。何か記憶や感情が浮かんできても、それに流されるのではなく、「何か出てきたな、それが出てくるのはOK。でも今はここに留まる」という姿勢を保つことが大切です。
時間で区切ってその間は集中を続けるという方法を続けていくと、感情や記憶、思考などの雑念が湧き上がってくる一方で、継続によって集中力も鍛えられていきます。
2, 継続による耐性の育成
松村憲:また継続によって不快感に対する『耐性』が自然と身についてきます。
「今日はこのぐらいでいいだろう」とか「感情が出尽くした感じがする」、あるいは「これは延々と続きそうだから、今日はもうこれぐらいで終わりにしておこう」といった判断ができるようになるのです。
ただし、最初の頃に1人で実践する際に最も安全な方法は、やはり時間で区切ることだと思います。
3, 日常への円滑な移行
松村憲:そして、瞑想が終わった後は、切り替えて意識を日常に戻すことが重要です。瞑想での体験を引きずるのではなく、むしろ積極的に日常のタスクに意識を切り替えるのが良いでしょう。大きな反応が延々と続いても、私たちは一日中瞑想しているわけにはいきません。日常モードへの切り替えを意識的に行い、不快感を引きずりにくく、徐々に耐性を身につけてます。
小島美佳:私も、瞑想を始める前に時間を決めておくのは良い方法だと思います。「30分やろう」とか、「今日はじっくり取り組みたいから1時間くらい時間を取ろうかな」など、事前に意図を持って時間を設定すると、その時間内で必要なプロセスが自然と起こってくる気がします。
また、時間を区切るために、お気に入りの誘導瞑想の音源を利用するのも一つの方法だと思います。
<【簡単!】仕事モードをオフに切り替えるポイント3つをおさえた瞑想ガイド>
Source : 瞑想チャンネル for Leaders
瞑想後の意識変化と日常への復帰方法
小島美佳:今の話で瞑想を始めた初期段階で特に難しいのが、3番目の瞑想後にいかに日常に戻るか、どう切り替えるかという点だと感じます。
瞑想後の意識の変化
瞑想による意識の変化は、時として予想以上に深いものとなります。私はこれを「意識の砂粒が晴れていく」感覚と表現しています。湖の水面が静かになっていく様に、瞑想によって徐々に意識が澄んでいき、その結果今まで見えていなかった様々なものが見えてくる過程で、時としてボコっと大きな何かを発見することもあります。時として強い引力を感じ、その感覚に引きずられるような感覚に陥ることがあります。
これは、瞑想家のMoojiが言う「マインドの木がザワザワと揺れる “The tree of the mind is shaking”」に近い状態と考えています。
例えば30分間の瞑想で、終了間際にこのマインドの木が揺らぎまくっている状態になり、瞑想後も、どこか頭の片隅でその感覚が上手く切り替えられず、意識のどこかでずっとその不思議な感覚が進行しているような気がします。
「洗濯機の渦」の比喩
s子:私の場合、その感覚は「回っている洗濯機の渦の中に自ら飛び込んでいる」状態に近いかもしれません。自分がその渦の中で回されている状態にあることに気づいて外に出ればいいのに、なかなか抜け出せない。これは好転反応の一種かもしれませんが、時として強い不快感やイライラを伴うこともあります。
30分では全然収束せず、洗濯機の状態にも気づけない時に、これをやめるべきか、感じ切るべきか、もう15分延長してみようか、など悩みながら実践している状況です。
松村憲:時間を延長できるのであれば、それも良い選択肢ですね。
マインドフルネス瞑想で気持ち悪くなる方の多くが、まさにその「渦の中」にいる状態です。しかし、そこに長く留まっても意味がありません。重要なのは、その状態に気づき、そこから抜け出そうとすることです。あるいは、適切な距離をとって観察できるようになれば、後は自然と収束はしていきます。
その後 予定がない場合は、一旦休息を
ただし、グワングワンと回っているような強い動揺状態にあるときは、無理をする必要はありません。その渦から抜け出る感覚をつかめている人なら良いですが、瞑想後にかえって気分が悪くなってしまったという場合、日中だったら大変かもしれないけど、夜だったら真っ先に寝てしまうのが1番ですね。
s子:私自身も結構、瞑想サロンに参加した初期の頃は、オンライン瞑想会の後にグッタリと横になり、そのまま30分が経っていた、ということがよくありました(苦笑)。
瞑想中の不快感:その心理学的メカニズム
松村憲:追加で、現実や日常にしっかりと戻ることの重要性は強調しておきたいですね。基本的に、瞑想に慣れていない人ほど不快感を経験しやすい傾向があります。
これは、今まで意識の底に沈めていたもの、無意識領域に押し込めていた様々な感情などが、瞑想中の「今ここ」への集中によって緩み、表面化するためです。その結果、予期せぬ感情の噴出に圧倒されたり、驚いたりすることがあります。その結果、目眩や吐き気、体の痛みなど身体的な不快感を伴うこともあります。
しかし、これらの現象も必要があって起こっている、昇華されることでより自己認識や自己受容も進むので、恐れる必要はありません。ただし、その状態が辛いのに、無理に瞑想を続ける必要もないと思います。ですから可能な範囲内で現実的なケアをしつつ、その不快な感覚はいったん置いておき、それでも瞑想は日々小刻みにでも続けていくことをお勧めします。そうすることで、徐々にそれらの感覚を手放せるようになっていくはずです。
(※注:瞑想のたびに毎回体調を崩したり、日常生活への適応が困難になるようでしたら、瞑想を控えることをお勧めします。メンタルヘルスの状態を十分に理解している瞑想の指導者や専門家に一度相談してみることをお勧めします)
経験者の視点
私自身、瞑想中に不快感を覚えることはほとんどなくなりましたが、それでも過度の仕事でかなり神経的に疲弊しているときなどに瞑想をすると、まれに吐き気を感じることがあります。でもそういった場合も「無理してたんだな」と認識してそのまま受け入れたり、体を休めたりするなどの対処をしています。
小島美佳:そうですね。
瞑想をすることが良いものだと認識しつつも、なんというか自分自身を瞑想へと追い込んでしまう、『瞑想に挑んでいく』ような人は多いような気がします。
それが心地よい場合は続けても構いませんが、気分が悪い状態が続くときは、別の視点を持つことも有効かもしれません。例えば、『瞑想は自分にとっての精神的マッサージだ』と捉え直すことによって、適度に力は抜けていくかもしれませんね。
瞑想中の不快感への対処法:6つの効果的アプローチ
小島美佳:以上のように、マインドフルネス瞑想中に気分が悪くなったり、不快感を覚えたりすることは珍しくありません。ここからは、そのような状況に直面した際の具体的な対処法について、6つのアプローチを紹介します。
1, 力を抜いてリラックスをする
小島美佳:多くの方が「不快な感覚をなんとかしなければ」と考えがちですが、それは逆効果です。そういった考えに囚われると、先ほど話題に上がった「洗濯機の渦」にさらに引き込まれてしまう傾向があります。ですからその「洗濯機」を発見したら、むしろ積極的に力を抜いてリラックスすることをお勧めします。
松村憲:その点は非常に重要ですね。
マインドフルネス瞑想の本質は、思考や感情を制御することではなく、それらを観察し、その感覚を受け入れる姿勢を持つことです。まさに「抵抗しないこと」が、不快感から抜け出す最短の道なのです。
Source : 瞑想チャンネル for Leaders
2, 場所・環境を変える
小島美佳:また、瞑想後の気持ち悪さが続く場合は、積極的に場所を変えることをお勧めします。例えば、瞑想後に「うわぁ」と感じたまま同じ椅子に座って仕事を続けるのではなく、一度場所を変えて全く別のことをするのが良いでしょう。
できれば生きている感覚を味わえるような活動がお勧めです。
例えば、果物を切るとか、土を触れてみることなどは、心身のリセットに効果的です。これは、土壌との接触が心身の健康に良い影響を与えるという研究結果(『土に触れる生活が心身の健康につながる。抗ストレスの妙薬は「土壌」にあった:研究結果』WIRED, 2019)とも合致しています。
松村憲:はい。まさに美佳さんが言ったこととか大事で、瞑想を始めるとさまざまなことが起こり得ると思うんですよね。
3, 現実に戻る
松村憲:瞑想中に起こる不快感には様々な原因が考えられます。例えば、ため込んでいた緊張が瞑想で緩んで出てくる場合や、抑圧していた感情や記憶が表面化してびっくりする場合などがあります。これは心理学用語で言うフラッシュバックのような現象と言えるでしょう。
しかし、そこに飲み込まれてしまうのは好ましくありません。そのため、瞑想を一旦止めて、しっかりと現実に戻ることが大切です。具体的には:
- 目を開ける
- 自分の体を確認する
- 現在の日時や場所を思い出してみる
- 意識的な深呼吸を数回行う
このように、「今ここ」に意識を戻すことが非常に重要です。さらに、2番目でお話があった自然とつながる感覚を取り戻すのも効果的です。
4, 内省的な記録をつける
松村憲:瞑想によって様々な思考や感情が活性化される人もいます。そのような場合、ジャーナリングが非常に効果的です。
瞑想から一度離れて、5分間ほど、頭の中に浮かぶ思考を紙に書き出してみましょう。
書き出すことによって、瞑想中に出てきた不快な感覚や思考との間に適切な距離が生まれます。さらに少し後で読み返すことで「こんな罪悪感を感じていたのか」「このような思考が自分を緊張させていたのか」といった気づきや客観的な視点が得られ、だんだん落ち着いていけると思います。
Source : 瞑想チャンネル for Leaders
松村憲:マインドフルネス瞑想に関して、よく誤解されている点があります。
- 「瞑想やマインドフルネスは、ただ座って考えないことだ」
- 「座っているだけで十分だ」
こういった意見をよく耳にしますが、現実はそう単純ではありません。私たちは皆、修行中の僧侶というわけではありません。日常生活には複雑な人間関係や仕事の責任があり、それに伴って様々な思考パターンや感情が生じます。
例えば、瞑想中に「私は世界一ひどい人間だ」といった深い自己否定的な思い込みが浮かんできたとします。このような状況で、ただそれと向き合って座り続けることが本当に有益でしょうか?特に注意が必要なのは、強い嫌悪感を伴う記憶や感情です。それらに飲み込まれてしまうと、もはや意識的な状態とは言えません。このような場合、むしろその感情から適切な距離を取ることの方が心身の健康にとって有益だと考えます。
マインドフルネス瞑想の真の目的は、単に座って何も考えないことではなく、自己の内面と適切に向き合い、バランスの取れた心の状態を育むことにあります。時には瞑想を中断し、別のアプローチを取ることも、全体的な実践の一部として重要なのです。
5, 不快感の一時性を理解する
小島美佳:また、重要なポイントとして、瞑想中に生じる不快な感覚や思考は、なかったことにはせず感じ取って観察を続けていると、時間と共に自然と薄れていく、風化してなくなっていくものだと理解することがあげられます。瞑想を続けていく中で、これらの感覚が徐々に小さくなっていく様子を観察できるようになります。
多くの場合、気がつかないうちにその不快感が消えていることもあります。「以前よりもずっと感じなくなった」と突然気づくこともあるでしょう。
松村憲:その通りです。
この過程を体験的に理解していくことで、瞑想の深みが増していきます。伝統的には、これを「イクオニミティ(equanimity)」、つまり平静な心や平静さと呼びます。
どんな思考や感情が現れても、それらを見つめ続けると、手のひらの上にのっている氷が必ず溶けるように変わっていきます。瞑想中に生じる様々な状況も同様のものだと体験的に理解できるようになります。その結果、瞑想力がついていきますし、このような感覚は日常生活や人生そのものにも応用できるようになります。
マインドフルネスは『集中と洞察』と言われますが、これはまさにその『洞察』の部分ですよね。瞑想中に不快な感覚や恐ろしいイメージが現れても、判断せずにありのままに観察し続けることで、「生まれたものは必ず消滅していく」という真理を体験的に理解できるのです。この経験を重ねることで、瞑想トレーニングが進み体力・筋力がつき、心の動揺も減り、より深い落ち着きを得ることができます。
s子:私も最初は不快な感覚に抵抗していましたが、続けているうちに「これも過ぎ去っていくんだ」という実感が得られるようになってきました。
6, 専門家のサポートを受ける
松村憲:最後に重要なのは、瞑想の「器」、つまり実践の場や環境です。
自分1人で瞑想をやっていて「うわぁ」となるような不快な体験をしてしまうと、その後やりたくなくなってしまうかもしれません。
しかし、経験豊富な指導者や仲間(善友)と共に瞑想を行うことで、以下のような利点があります:
- 不快な体験への適切なガイダンス
- 奥深くに眠った感情や記憶が噴出した際のサポート
- 経験者からの直接的なフィードバック
- 共同実践によるモチベーションの維持
「不快な感覚も観察してみてください」と導いてくれる安全な環境があることで、「あ、これは変化していくものなんだ」という体験や理解も深まり、自分自身もその状況をホールド力が育っていくのです。
特に困難な時期には、共に実践する仲間や指導者の存在が非常に重要です。彼らのサポートがあれば、困難も乗り越えやすくなります。
まとめ:マインドフルネス瞑想の持続可能な実践
松村憲:最後に強調したいのは、瞑想中の不快感は決して珍しいものではないということです。それは心身の浄化プロセスの一部であり、適切に対処することで、より深い気づきへとつながっていきます。
小島美佳:そうですね、大切なのは、自分のペースで、無理なく継続すること。時には休憩を取りながら、長期的な視点で実践を続けていくことをお勧めします。
【エネルギー調整のための瞑想ガイド(7分半)】
Source : マインドフル瞑想チャンネル
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