今回は神経科学のオススメ本『ブレインドリブン – パフォーマンスが高まる脳の状態とは –』をご紹介します。本書の著者はアメリカUCLAで神経科学を学び、その知見を活用して様々なプロジェクトも行っており、予約の取れない人気セミナー講師としても有名な青砥 瑞人氏です。
本書では著者がこれまで行ってきた数々のセミナーの中で特にビジネスパーソンに人気のあった内容
- モチベーションを育む
- ストレスとうまく付き合う
- クリエイティビティを高める
の3つのテーマに絞って神経科学的な視点から多面的に解説されています。そしてこれらを理解した上で「どう活用するか?」という点にはマインドフルネスや瞑想が役立ちそうです。
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目次
神経科学、ビジネス、マインドフルネスは相性がいい
これまでマインドフルネス瞑想の「リラックスする」「ストレスが解消する」「睡眠の質が向上した」といった効果については統計学的調査によって明らかになってきている一方で、「なぜ改善されるのか?」といったメカニズムに焦点を当てた科学研究が始まったのはここ10数年のことです。そして近年の神経科学研究の発展によって、瞑想は脳の活性化状態に影響するだけではなく、脳・神経の特定の部位の可塑性へ作用(つまり脳そのものの構造や神経回路が変化する)ことが分かっています。
どんな人におすすめか?
本書はビジネスパーソンがパフォーマンスを向上させるための神経科学の知見から得られた情報が満載です。がビジネスマンのみならず学生さんの学習や家事・育児など、日常生活をより生きやすくするためのヒントも満載だったので、神経科学と聞くと少し難解かな?とも思いますが、図解やまとめなどもあり、専門用語にも脚注がついているので読みやすいです。
ハウツー(どうやるか?)は自分で作るもの
何をどうやるのか (HOW) について説明しないのか、疑問に思われる方もいるかもしれない。しかしHOWについては読者の方一人ひとりにお任せしたいと思う。なぜならHOWは現場によってあるいは個人によっても全く異なるからだ。(中略)神経科学の観点から言えばハウツーは与えられるものではなく自分自身で作るものであるからだ。(中略)自分でハウツーを作るのは少し難しそうに思われるかもしれないが、文書をお読みいただければそれが決して難しいことではないと気づかれると思う。
「本書の基本スタンス」p10より引用
私の研修を受けていただく方にはそのことを説明し、自己と向き合い、自分は何をどうすればいいのかを考えていただく。そのプロセスを踏むことで、皆さんが皆さんなりの変化、成長を実感していただける。そのプロセスこそが真実である。ただ結果を知ることだけが学びではない。
このように本書では神経科学の観点から「脳の中で何が起こっているのか(What)」を説明し、「なぜそうなるのか?(WHY)」についての知識を深めていくことを目指している点が新しいと感じました。
脳や神経の作用機序を知り、日々の生活に活かす
本書にも度々書かれていますが、脳の中のニューロン(神経細胞)の数は加齢と共に減少する一方です。しかし繰り返しや習慣付けによって脳に学習させ、ニューロン同志の繋がりや回路を強化すること、また機能が失われた部分を近接した他の脳領域が機能を補完することも明らかとなっています。つまり脳のパフォーマンスを向上させることは何歳になっても可能なのです。
「なぜそうなるのか?」という点については脳科学や神経科学の論文を踏まえた解説や図解もかなり豊富なので、理論的に理解したいという人にはオススメです。 (逆に「なぜそうなるのか?」といったことには興味がなく、「手っ取り早くハウツーを知りたい!」という方には向かないかもしれません、、、)
1) モチベーションを育む
モチベーション、と一言で言っても様々な種類のモチベーションがあり、本書では最初にそれらを詳細に分類しつつ説明しています。その中でも一般的にビジネスシーンで用いられる「モチベーション」は「自分を高める」を意図したものが多いと思います。では「自分を高める」ためにはどうしたら良いのでしょうか?
過去記事『マインドフルネスを実践すればモチベーションは上がるのか?』にも本書にも「モチベーションを上げるためには「好きなことをやる」のが一番」と書かれています。
しかし、「ねば べき」思考や効率や生産性に囚われていると、「モチベーションが上がるほどに自分が好きなことってなんだろう?」と意外と分からなかったりします。そこでより自分自身のことを理解し、自分が好きなことを知るために必要となるのが、メタ認知です。
メタ認知とは
メタ認知とは、自己の認知(考える・感じる・記憶する・判断するなど)のあり方・認知活動を客観的に認知することです。本書では「自分自身を客観視、俯瞰視」した認知の状態、と定義しています。
自分のことを意識的に注意深く見ることで、自分の感じ方、考え方、振る舞い方を知り、その結果他人の意見や価値観ではなく、自分で感じ、考え、行動する自律的な脳が育まれる、とされます。こうしたことを繰り返し行うことで自分のパフォーマンスを高め、成長することができるようになるとのこと。
こういった自分を客観視するスキルは観察瞑想でも養うことができます。自分自身を俯瞰的に見るという時間を日常的に取ることで、少しずつメタ認知能力・気づく力が備わっていきます。
メタ認知・思考観察のためのアプリ
また瞑想の習慣化の他にもメタ認知能力を養うスマホアプリもあります。
認知行動療法の研究で著名な早稲田大学 人間科学学術院 熊野宏昭研究室との共同研究で開発されたアプリ
Awarefy
もその一つです。
2) ストレスと上手に付き合う
本書ではストレスと上手に付き合う方法として「見つけにくいストレスのポジティブな要素に目を向ける」ことが重要だと書かれています。
人間の脳の認識が差分によって行われる体期待値との差分の大きさによって注意の向け方が異なるのである。やらなければならないことがあり(中略)予定通りにできて差分を生まなかった事柄に対しては、意識が向きにくいという脳の仕組みがある。人間の脳にはエラーを判定するための脳機能は存在するものの、わざわざできたところを無意識的に探ろうとするの脳機能は備わっていない。(中略)だから、意識的にできた部分を見ることが重要だ。不足した部分からの学びもあるが、満たした部分から得られる得られる学びも大きい。
「ブレインドリブン」p166より引用
成功体験をその時点の満足感で終えてしまうのはもったいない。「成功体験を支えたストレスや失敗」を価値として脳に学習させる機会を繰り返し重ねていくことが、レジリエンス(折れない心)を育て挑戦する心を育てる。
成功体験の中にレジリエンスを育むヒントがある
また成功体験も失敗も客観的に評価判断することなく観察することを習慣化することで、できた部分にも着目する視点が養われると期待されます。
これはビジネスシーンでのパフォーマンスだけでなく、育児や教育、自己肯定感を育むという点でもとても重要な考え方だと感じました。日本人は特に「失敗をしたら次にうまくいかせるためにはどうしたらいいか?」と反省・改善を教えられ、ミスをしないことに目が行きがちな印象です。
自分の中で成功体験の前後をしっかりと味わう、ということを意識的に行うだけでも、失敗などに囚われ過ぎて過剰なストレス反応が軽減するかもしれません。
重要なのは、成功体験が得られてポジティブな感情が出ているときに、失敗の経験あるいはストレスと結びつけて「同時に」学習することだ。
「ブレインドリブン」p162より引用
このような習慣づけをすることによって、例えばテストやプレゼン、スポーツの試合などの前に非常に緊張してしまって本来の自分の力を出せない、というようないわゆるあがり症の人にとっても、「ストレスを乗り越えた先に得られた成果」に意識を向けることで緊張とうまく付き合うことができるようになると期待されます。
ストレスだけに着目せずその前後に何があったか?と振り返ったり、客観的に観察することでストレスを味方につけることも可能になるとのこと。そのやり方としてメタ認知が有用ですし、マインドフルネス瞑想の中でも観察瞑想で客観視の視点を養うことによっても、レジリエンスを育てることが期待できます。
3) クリエイティビティを発揮する【おすすめの章】
この章だけでも本書の価格分の価値があると言っても過言ではないほどです。本書によると
- クリエイティビティは後天的に育むことができる
- クリエイティビティは脳の複雑な情報処理を経るが、その発揮の仕方については徐々に明らかになりつつある
とのこと。アイデアを出せる人や表現力のある人はそういった才能がある人なんだと私自身は思っていたので、本書に書かれていたトレーニングや環境を整えることによって、誰でもクリエイティビティを発揮できる可能性があることが科学的に立証されてつつあることを知れたのは朗報でした。
創造プロセスと評価プロセスを分けて考える
世間一般に言われる『クリエイティビティ』という単語は、周囲から評価されるような新しく価値ある何かを生み出した結果、と定義されているように感じます。著者はむしろ、価値のあり・なしはさておき、『創造的な行動行為をしている状態』をクリエイティビティと定義するのではないか?とまず疑問を投げかけます。
クリエイティビティを発揮するためのマジックなどない。いかにクリエイティビティ脳を活用し続けるか、脳の創造プロセスを活用し続けるか、それらを継続し続けるかがクリエイティビティを高める。重要なのは、他人に低く評価されたからといって、やめないことだ。(中略)創造プロセスの脳は非常に複雑なプロセスを経る。したがって習得も容易ではない。日々の繰り返し、反復がどうしても必要となる。そのためには、創造の主体者が前向きに創造プロセスを継続してくれるための言葉がけをしたり環境整えたりする必要がある。
「ブレインドリブン」p272より引用
クリエイティビティを発揮する上での大前提として心的安全状態を作ることが大事とのこと。心理的危険状態にあるとストレスで扁桃体が過剰に反応し、それによって前頭前野(前頭前皮質)の機能が低下します(「ストレスと前頭前野」東邦大学)。クリエイティビティを発揮する上で重要な役割を担うのも前頭前野とのこと。よって、ストレスによって前頭前野の機能が低下すると、脳内でいくつもの情報を蓄積させておくためのワーキングメモリーの機能が使えなくなってしまい、結果発想力も低下します。
つまり、新しく何かを創造する際は、「アイデアを出し続ける」プロセスが大事で、ブレストの最中に批判したり却下したりすると心的安全状態が保たれないので、評価プロセスと創造プロセスを切り分けることが大事とのこと。
よって、上述のように創造プロセスを継続できる様な言葉がけや環境を周りも意識して整えること(創造プロセスの際にはネガティブな評価判断をしない)、また環境によっては難しい場合は心理的にも落ち着ける場所で一人で行うなど、まずは環境を整えることが大事だと感じました。
人間の脳は人工知能とまったくの別物と理解する
またクリエイティビティを発揮する際には、人間の脳の曖昧さをうまく活用する、楽しむことが大事とのことです。
人間の脳の特徴であり強みは、学習のあり方の曖昧性や不確実性である。学習した内容の処理も曖昧で不確実であり内外の干渉を大きく受ける。そしてなまものである脳の持つ曖昧性・非再現性・近似的認識・多面的変化、内外干渉という「揺らぐ情報と情報処理」がクリエイティビティーを発揮する一助になっている可能性が高い。
「ブレインドリブン」 p262より引用
(中略)そうした脳の使い方だけではなく、時として記憶違いや壮大な勘違いをも楽しむことがこれからの時代は重要になる。むしろそれこそが次世代の脳の使い方と言えるかもしれない。
もちろん新たなアイデアを生み出すためにはその元となる情報のインプットも大事ですが、それらを正確にかつ大量に記憶することはAIにもできること。しかしAIには得られた情報について感想や感情を持ったり、何かと何かを繋げて新たなアイデアを生み出したり、という機能は現在のところありません。
人間の脳 特有の機能である『あいまいさと不確実性』をうまく活用してクリエイティビティを発揮する上で、デフォルトモードネットワークが鍵になるとのこと。詳細は是非お手にとって読んでみてください!