脳科学の驚くべき発見が、ビジネスリーダーシップに新たな革命を起こしています。
感謝と思いやり(コンパッション)による幸福感の向上が、近年アメリカのリーダーシップスキル研究の重要なトレンドの一つになっています。これらの感情が、他者を導く上で重要な スキルとなる理由を探ります。
今回は、脳科学的な幸福の本質と、科学的に幸福感を高める方法から、思いやりのリーダーシップの効果についてお話ししていきます。
目次
脳科学が解き明かす幸福の本質
近年、脳科学の進歩により、人間の幸福感がどのように脳内で生成されるかが明らかになってきました。特に注目されているのは、感謝と思いやりが脳に及ぼす影響です。
実際に、みなさんが幸福を感じるときはどんなときでしょうか?
人が幸せを感じる瞬間は、過去や未来に思い悩むこともなく「今ここ」にしかないマインドフルな状態になっているはずです。さらにそのような状態のときには、エゴは働きにくいと言われています。つまり、エゴのない状態をいかに作り出せるか?が幸福への近道でもあります。
ではエゴを減らすための近道は「感謝」です。「感謝」を想起できる習慣が身につくほどに自身の幸福感が高まり、また周囲への影響も変わってくるはずです。
感謝のマインドフルネス
繰り返しになりますが、マインドフルネスの基本は気づきと今ここ、
・今この瞬間に心を集中させる、と、
・判断しない、ありのままを観察できる
ということです。
感謝をしている瞬間に「あぁ、ありがとう」と心の底から思える状態は、感謝に意識が向き集中していて無駄がないのでマインドフルな状態だと思います。
脳科学者で医学博士の岩崎一郎先生の著書『科学的に幸せになれる 脳磨き』でも、脳科学的に幸福な状態について言及されていました。これは脳科学の最前線が、古来の知恵・仏教など東洋思想で長く説かれてきた概念と融合する、興味深い時代に入ったと言えます。
岩崎先生の著書によると、幸福な脳を作る上での最大の敵は、意外にも私たち自身の内部にあります。それは自己への過度の執着やエゴとのこと。これらの要素が強く働くと、脳の機能が本来の能力を発揮できず、脳の働きを弱め、結果として幸福感が阻害されるとのことです。
幸福を感じる脳の状態とは
医学者でチベット仏教僧侶マチウ・リカール(マチュー・リカール)氏の脳の解析から
マチウ・リカール氏はフランス人医学者で、その後出家されてチベット仏教の僧侶となり、ダライ・ラマ14世のフランス語の通訳などもされている幸福学研究で著名な方です。
(参考:TED日本語 – マチウ・リカール: 愛他性に導かれる生き方)
書籍『 心と体をゆたかにするマインドエクササイズの証明』の著者でもあるウィスコンシン大学のリチャード・デビッドソン教授の研究で、1,000人以上の瞑想実践者の脳波を測定し、脳の活性化状態を調べました。その結果、脳のアクセルに相当する部位(左側前頭前野)の最も活性が高かった人がリカール氏でした。
脳のアクセルを担う領域の活性が高いと幸福感を感じることもわかっており、この結果から「リカール氏が脳科学的に世界一幸せな脳の持ち主」と言われ、さらなる研究対象になりました。
利他の心で人々の幸せを祈る=セルフレス
リカール氏の脳をさらに調べた結果、彼が利他の心で世界の平和や人々の幸せを祈る瞑想をしていた時、脳のアクセルに相当する部位が最も活性化していました。その時、脳の状態は「セルフレス」でした。同様の結果は他のチベット仏教僧侶でも検出されました。
セルフレスはエゴの反対に当たり、脳全体がバランスよく使えている1番良い状態です。
幸福を阻害するエゴの影響
一方で、過度に自己中心的な思考、つまりエゴが強く働くと、脳全体のバランスが崩れることも明らかになっています。エゴが強い状態では、自己への執着が強まり「自分さえよければ」という思考パターンは、他者や環境との調和的な関係を築きにくくなります。
これは脳の幸福回路の活性化を妨げ、結果として幸福感の低下につながるのです。
この研究結果は、幸福な脳を育むには、エゴを適度に抑制し、感謝と思いやりの心を育むことが重要だということを科学的に裏付けています。
島皮質の発達が脳の幸福度に影響?
また近年の研究によると、脳の活性化状態のバランスを取る働きをする脳領域として、島皮質が注目されています。
島皮質は、大脳皮質の一部で、外側面の奥まったところ、側頭葉と頭頂葉下部を分ける外側溝の中に左右二つあります。外側から見えないため発見が遅れ、ここ10年くらいで注目を集め研究が進んでおり、最近では瞑想の実践とも関係するということがわかってきています。
島皮質が関与する主な機能としては、
・社会的感情・道徳的直感・共感性
・音楽への感情的な反応
・依存・痛み・ユーモア
・他者の表情への反応
・購買の判断・食の好み
・非認知能力
などです。
この島皮質が発達している人や厚い人は、脳をバランスよく使うことができ、幸福度も高くなると言われています。また他者への共感や思いやりを持つことで、島皮質と呼ばれる脳領域が活性化します。
科学的に実証された幸福を高める実践法
脳科学の知見に基づいて、私たちの幸福度を高める効果的な方法が明らかになってきました。特に注目されているのが、「感謝」と「AWE体験」です。これらの実践は、単なる心理的効果だけでなく、脳の構造や機能にもポジティブ な変化をもたらすことが科学的に実証されています。
1, 感謝
感謝の気持ちを意識的に持つことは、脳の幸福回路を活性化させる最も効果的な方法の一つです。日々の生活の中で「ありがとう」と心から思うことで、脳内のセロトニンやドーパミンといった幸福ホルモンの分泌が促進されます。
マインドフルネスの実践の中にも慈悲の瞑想・コンパッションの瞑想が含まれます。その際、自分、大切な人、身近な人、と幸せを祈る対象を拡大していき、最後には「嫌いな人の幸せを祈る、生きとし生けるもの全ての幸福を願う」ところまで行います。
この慈悲の瞑想の中で最も効果がある、短時間の実践で効果が出るのが「嫌いな人の幸せを祈る」実践と言われています(『 心と体をゆたかにするマインドエクササイズの証明』より)。この行為は、一見難しく感じられますが、実は脳に驚くべき効果をもたらします。
嫌いな人の幸せをも心から祈ることで、自身の怒りや憎しみの感情が和らぎ、前頭前皮質の活動が活性化します。これにより、ストレスホルモンの分泌が抑えられ、代わりにセロトニンなどの幸福ホルモンの分泌が促進されるのです。
幸福度を高める2種類の感謝
また、感謝には「恩恵的感謝」と「普遍的感謝」の2種類があります。
恩恵的感謝は、自分にポジティブな成果があった場合や、誰かから直接受けた恩恵に対する感謝であり、Doingによる感謝と表現されます。
普遍的感謝は、常に感謝の気持ちを持つこと、つまり在り方「Being」の状態にあることを指します。生きていること、家族や仲間がいること、日常のありふれた出来事や自然の美しさなど、ありとあるあらゆるものに感謝することができます。
普遍的感謝は利他的な面があり、レッスンとしては感謝することを意識することで、自分自身を染み渡るように感謝の気持ちで満たし、幸福な脳を作り出すことができます。また、素晴らしいパフォーマンスを発揮している著名な人たちの中には、普遍的感謝の習慣が強い傾向があると言われています。
普遍的感謝には、恩恵的感謝も含まれ、両方の感謝を意識的に実践することで、より豊かな幸福感を得ることができるのです。
2, AWE体験
AWE体験、つまり畏怖の念を感じる体験もまた、脳の幸福度を高める重要な要素です。英語で言うとAwful (荘厳な) のAWEなんですけれども、「あーなんかすごいなぁ」といった感覚です。例えば、壮大な自然景観や芸術作品、科学的発見など、自分を超えた何かに圧倒される体験は、前頭前皮質の活動を活性化させ、自己超越的な感覚をもたらします。
興味深いことに、AWE体験は必ずしも大規模なものである必要はありません。日常生活の中で、美しい夕焼けや子供の無邪気な笑顔、自分の大好きなもの、趣味など、小さな驚きや感動を見出すことも、同様の効果をもたらします。よって、このような体験を意識的に増やすことで、脳の幸福回路がより活性化され、全体的な幸福度が向上するのです。
わかりやすい例としては、アニメオタクの人にお気に入りのアニメの素晴らしさについて語ってもらうと「こんな神なんです」みたいな話が沢山出てきたりするのも、ある意味AWE体験の1つかなと思います。つまり、AWE体験そのものが幸福の1つとも言えます。
ビジネスマンに必要なのは、自他共に幸せになるマインドセット
コンパッションの実践 – Loving Kindness –
今回は、伝統的なマインドフルネスのレッスンに含まれるコンパッション瞑想についてお話しします。実際に行ってみましょう。やり方は単純です。
- まずは、自分の幸福を願うと言うところから始めます。
- その後、他人の幸せを願うことに切り替えます。
- 最後には、全ての生命が幸せになることを願います。
この願う対象はどこまで広げてもいいんですけれども、アドバンス版では嫌いな人の幸せを願うとより効果が高いですよ、とかも言われたりしますが、その願う対象をどこまでも広げてみてください。
この後、私のガイド音声もありますが、まずは自分自身が幸せであることを認識して願ってみてください。
これだけでも、心が暖かくなったり、優しい気持ちになったりすることがあります。
1つめのポイントとして、私たちはエゴに執着する傾向がありますが、これをうまく利用して「自分が幸せになりたい」という願いを、心の底から感じて思い出してください。自分が大事、幸せになりたいという願いは、マインドフルネスの流れの中では、誰もが思っていて、自然に生まれるものです。それを思い出すみたいな感じでやってみてください。
2つめのポイントは他者についてです。なかなか他者の気持ちになることは簡単ではありませんが、その上で他者の誰もが自分と全く同じように、幸せになりたいと言う願いがあることを思い出しましょう。それによって、他人に対する幸福を願いやすくなってくると思います。それをより広げて幸せの願いを世界中に広げていきましょう。
思いやりのマネジメントの重要性
世界で最も愛されているCEO Linked In ジェフ・ウェイナー氏のリーダーシップ
最後にリーダーシップに思いやりを取り入れて成功した例として、Linked In CEOのジェフ・ウェイナー氏についてお話ししましょう。彼は思いやりを大切にしている人物です。2017年の社長時代には「世界で最も愛されているCEO」と言われていました。
しかしかつての彼は、自分のコピーを作ればパフォーマンスが向上し業績も上がるに違いないと考えて、リーダーになったときに積極的に取り組んだ結果、スタッフ全員が辞めてしまう事態に陥ってしまったという過去があります。その後、彼は改めて考え、思いやりやコンパッションの重要性に気付き、マインドフルネスを実践し始めました。
思いやり・コンパッションで困難を乗り越える方法を共に考える
ジェフ・ウェイナー氏が世界で最も愛されるCEOの一人となったのは、彼の持つコンパッションや共感、思いやりの力が大きく関係しています。彼の思いやりは行動を伴って実践され、相手の困難な気持ちを理解した後に共感し、そこから少し距離をとって、その後一緒に困難を乗り越える行動を起こすことが大切であると語っています。このようにコンパッションとは、相手の気持ちに入り込みすぎず、次にどう乗り越えるかを一緒に考えることで、それにより思いやりの力を高めることができます。
このように、マネジメントやリーダーシップにおいては、思いやりのあるマネジメントを取り入れることが非常に重要であると語っています。つまりビジネスマンにとって必要なのは、自己と他者の両方が幸せになれるマインドセットです。
【実践】幸福感を高める 感謝の瞑想(6分半)
こちらのガイドで自分の幸福や近しい人の幸福を願い、「感謝」を想起できるようガイドしました。
「感謝」を想起できる習慣がつくほどに自身の幸福感が高まり、またチームや組織、家族など周囲への影響も変わってくるはずです。
Source : 瞑想チャンネル for Leaders
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