近年、オリンピック選手から実業団選手まで、多くのスポーツ選手が取り入れているマインドフルネス瞑想。
従来型のメンタルトレーニングとは一線を画するこの手法が、なぜアスリートの競技力向上に革新的な効果をもたらすのでしょうか。本記事では、スポーツ心理学の最新研究から、競技成績へのメンタルトレーニングの影響についての文献をご紹介します。
目次
マインドフルネス瞑想で進化するアスリートのメンタル強化
スポーツ競技者の心理的スキル(精神力)の向上・メンタル強化というと、「根性論」や「精神統一」といった言葉を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。しかし近年、科学的根拠に基づく新しいアプローチとして、マインドフルネス瞑想が注目を集めています。従来のメンタルトレーニングと、このマインドフルネス瞑想では、どのような違いがあるのでしょうか。
今回はこちらの論文を元に解説していきます。
『スポーツ競技者のパフォーマンス低下を抑制する マインドフルネスの役割』
雨宮 怜、坂入 洋右、心理学研究(2017年)
従来型のメンタルトレーニングの限界
これまでスポーツ選手の精神力向上には、 “Psychological Skills Training” と呼ばれる心理プログラムが用いられてきました。
練習中や試合中のミスによるストレスや不安の記憶や印象がトラウマとなりチャレンジを躊躇ってしまう、パフォーマンスが低下することがないよう、意識的にポジティブな思考に切り替えることで克服を目指すアプローチです。目標設定やルーティーン作り、リラクゼーションなどを組み合わせ、ネガティブな認知や感情を減少させることを目的とし、心理的スキルの獲得や心的健康を高める試みが長く行われてきました。
しかしこの従来型のメンタルトレーニングには、大きな課題が指摘されていました。それはネガティブな感情や思考を意図的に抑制しようとするあまり、かえってその存在を強く意識してしまい、同じような失敗を繰り返してしまうというパラドックスです。(参考:toxic positivity)
マインドフルネス瞑想による新たなアプローチ
多くのスポーツ選手が体験するこの課題を解決する手法として近年注目を集めているのが、マインドフルネス瞑想です。これは単なる意識的なポジティブ思考や精神統一とは一線を画す、心理プログラムです。
マインドフルネス瞑想の本質は、「今この瞬間の体験に、価値判断を加えることなく意識を向ける」という点にあります。つまり、競技中に生じる緊張や不安といった感情や思考も無理に抑え込むのではなく、それらをありのまま受け入れ、観察する姿勢を育みます。さらに、自分の内面を客観的に観察し、現在の状況に柔軟に適応し対処する能力(メタ認知力)を高めるとされています。
マインドフルネス瞑想は、カバットジンによって仏教や修行的要素を排除し、瞑想法やヨーガといったトレーニングによってだれでも獲得・体験可能なものです。
エビデンスが示すアスリート競技力向上への具体的効果
この新しいアプローチが、なぜスポーツ選手のパフォーマンス向上につながるのでしょうか。
最大の特徴は、「今ここ」での体験(外的な刺激、身体感覚、感情や認知)を客観的に捉える能力を養える点です。試合中の緊張や不安も、「ただそこにある感覚」として受け止めることで、それらに振り回されることなく、冷静に理想的な思考や行動に切り替え、理想的なプレーに集中できるようになります。
実際 海外では、スポーツにマインドフルネスを取り入れることによって、バレーボールやフィールドホッケー、バスケットボールなどの競技で試合での獲得スコアが上昇したことも論文として報告されています。
さらには競技不安、あがりなどの一時的反応のみならず、バーンアウト(燃え尽き症候群)のようなメンタルヘルスの不調、イップス(心因性動作失調症)の改善にも効果が報告されており、現代スポーツに欠かせない心理的サポート法として確立しつつあります。
世界のトップアスリートが実践するマインドフルネス瞑想
さらに、実際多くのプロスポーツ選手がトレーニングや試合前のルーティンに瞑想を取り入れていることを公表しています。(敬称略)
- マイケル・ジョーダン(バスケットボール)、
- ノバク・ジョコビッチ(テニス)、大坂なおみ(テニス)、
- イチロー(野球)、クリスティアーノ・ロナウド(サッカー)、
- タイガー・ウッズ(ゴルフ)、
- ジョー・ネイマス(アメリカン・フットボール)、シアトル・シーホークス(アメリカン・フットボールNFLのチーム)、
- フロイド・メイウェザー(ボクサー)、
- 琴奨菊関(大相撲)、清宮海斗(格闘技ノア)、
- 橋本大輝(体操)
マインドフルネス瞑想がもたらす競技力向上への効果
マインドフルネス瞑想は、
- 集中力
- 注意力
- 自己認識力
を総合的に高め、卓越した自己制御能力の獲得を可能にします。
1の集中力の高まりは、思考や感情を抑制するのではなく、ネガティブ・ポジティブを問わずどのような体験も必ず変化していくと信頼し、ただ『今ここ』に集中することができるようになります。
さらに②の注意制御能力の向上は、これは熟練瞑想者でも報告されている効果ですが、意識を分散させて包括的に状況を捉えることが可能となり(メタ認知・バルコニービュー)、外的・内的影響を最小限にとどめ、本来の実力を十分に発揮できるようになります。
このような落ち着き、穏やかさやストレス解消だけでなく、『今ここ』への明晰さなども増すマインドフルネスの効果は、アスリートのみならず私たちの日常生活においても応用可能です。
実践編:10分から始めるマインドフルネス瞑想トレーニング
初めての方にもできるよう、姿勢の作り方から瞑想中のポイントまで分かりやすさ重視でガイドした音源を録音しましたので、是非試してみてください。
Source : 瞑想チャンネル for Leaders