【マインドフルネス瞑想の効果とは?】~脳科学研究が明らかにする集中瞑想の作用

 今回から3回に分けて、瞑想の効果について研究された学術論文のエッセンスをいくつかご紹介し、脳科学等、科学的に証明されたマインドフルネス瞑想の効果について、お伝えしていきたいと思います。初回は集中瞑想についてです。

瞑想によって痛みは軽減する!?

 以前の記事でもご紹介した瞑想やヨガによって痛みが和らぐメカニズムについては、久賀谷 亮 先生の著書『脳疲労が消える最高の休息法』にて、次のように述べられています。

 瞑想をすると、痛みのコントロールに関わる前帯状皮質 (ACC, Anterior cingulate cortex) の活動が増し、身体の感覚を司る感覚野の活動が低下します。これが瞑想が痛みを緩和する短期的なメカニズムだと考えられますが、興味深いのは、ベテランの瞑想者ではそれと正反対のメカニズムが見られるということです(ref1)。
 つまり、マインドフルネスの長期経験者の脳では、前頭葉の活動が低下し、感覚野の活動がむしろ高まります。ここから推測されるのは、痛みを前頭葉で無理に押さえつけるのではなく、脳が痛みを受け入れながら対処しているという可能性です。これは前頭葉扁桃体との調和状態にも通じるメカニズムです。

脳疲労が消える最高の休息法』より引用

左側の図が前帯状皮質(断面図)、右側が前頭葉の位置をオレンジ色で示している。
前帯状皮質は行動モニタリング、社会的認知、情動・痛覚などに関与。前頭葉は認知機能から運動機能まで幅広い機能を持ち、運動野、前頭前野などを含む。
(Sources : Wikipedia)

 実際に瞑想熟練者にとっての体の痛みは、

  1. 体表面の感覚神経で感じ取る情報(表面に加わる圧力・痛覚・熱さなど)
  2. 痛みにまつわる感情・過去の記憶(痛いのは嫌だ・早く痛みから解放されたい、など)

など細かい構成要素にまで分解され、2 の痛みに伴う嫌悪感は消え、1 のただ熱さ・圧力といった体感覚のみを感じるようになるのだそうです(下記、リチャード・デビッドソン博士著 マインドエクササイズの証明より)。
 ものすごい修行を積んだお坊さんが火の上を歩くといった行為なども、こういった状態を反映しているのでしょうか、、、(参考、長瀞火祭り


瞑想の効果を科学的に証明する

脳の神経可塑性」について学ぼう

 脳は成人になっても変化することができるということを知っていますか?
 これまで成人後の脳の神経細胞の数は減少し脳機能は衰えて行く一方だと考えられていましたが、近年の脳科学研究の発展により脳の中での神経可塑性が示され、適切に脳を使用することで年齢を重ねても神経回路が強化されたり機能を向上させられることがわかりました。
 脳の可塑性(外界の環境・刺激や内的な思考・体験などの後天的要素が、脳の構造や機能を変化させる現象)は、ラットなどの実験動物を用いた研究でも明らかになっています(例えば、おもちゃが沢山あるようなラットにとって好ましい条件の環境で飼育すると、脳に良い変化が出たそうです)。
 このように、脳は使えば使うほど発達する可能性を秘めています。


次々と紹介される瞑想者の体験

リチャード・デビッドソン教授の著書
Source: Amazon

 瞑想は、呼吸や身体感覚、思考や感情などに注意を向けることで、心と身体のバランスを整える方法です。瞑想は仏教やヨガなどの伝統的な実践に基づいていますが、近年ではストレスや痛みの管理、健康増進、幸福感の向上などに役立つとして、医療や教育などの分野でも注目されています。では、瞑想は脳にどんな影響を与えるのでしょうか?
 2004年には、ウィスコンシン大学の心理学・神経医学者リチャード・デビッドソン博士が、ダライ・ラマ14世と共同で行った研究で、

  • マインドフルネス瞑想が成人になっても脳を変化させること、
  • 瞑想の実践によって得られた脳の変化・効果は、瞑想中だけでなく日常生活でも持続すること(変性特質、Altered Traits)

が示され、マインドフルネスがwell-beingやQOL (Quality of Life) の向上にも大きく寄与することが期待され、注目されました。

 またジョン・カバットジン博士は、自身の仏教・瞑想・ヨガの体験からマインドフルネスが痛みの軽減やストレス耐性を高めることにも使えると考え、1979年にマインドフルネスを誰でも実践できるプログラムとしてMBSR (マインドフルネス ストレス低減)を開発しました。MBSRにはマインドフルな呼吸法やボディスキャン瞑想、歩行瞑想、ヨガ、思考や感情の観察など様々な手法が含まれ、臨床応用での有効性も示されています。
 一方、瞑想体験が多様であることは瞑想熟練者の方からの話でも明らかであり「まずは体験・実践してみて、続けてみましょう」と、ほぼどの方からも言われます。


瞑想の効果を証明するには? 学術的な視点から

 以前の記事で、松村さんが解説されていたように、実践する上での瞑想法は分かりやすいように便宜的に分類されていますが、研究者によって分類があいまいな部分もあります。実際、マインドフルネス瞑想を行う際には、集中瞑想から始めて観察瞑想や慈愛の瞑想に繋がったり、仏教の修行などでも一つの方法ではなく複数のメソッドが並行して行われ、それぞれの瞑想法が両輪であり含んでいる部分がある、といったお話がありました。

 したがって、瞑想の効果を科学的に証明するためには、瞑想法の種類を明確に定義し、それぞれの瞑想法が脳に与える影響を比較することが必要です。また、瞑想法だけでなく、瞑想の実践時間や頻度、経験年数なども脳への影響に影響を与える可能性があります。さらに、個人差や性別差、年齢差なども考慮する必要があります。これらの要因を適切にコントロールし、統計的に有意な差を検出し、再現性のある結果を得ることが、瞑想の効果を科学的に証明するための課題です。


瞑想が脳にもたらす効果

 前出のリチャード・デビッドソン博士は著書『マインドエクササイズの証明』の中で、瞑想がもたらす変化に関連する脳のシステムには以下の4つがある、と述べています。

1) 心をかき乱す出来事への反応をつかさどる神経回路
 ストレスへの反応とストレスからの回復を担う領域

2) 思いやりと共感をつかさどる神経回路

3) 注意をつかさどる神経回路

4) 自意識そのものをつかさどる神経回路
 これは、古来からの瞑想は自意識の改革を目的としていることからも言えます。

マインドエクササイズの証明』より引用


 これらを踏まえて、今回は瞑想の基本である集中瞑想の脳への影響についてご紹介します。

 なお、瞑想を実践する上で、細かな脳領域や機能の違いなどを覚えたりする必要は全くありません。瞑想の効果が科学的にも証明されていることを知っていただき、「じゃあ、ちょっとやってみようかな?」とマインドフルネス瞑想に興味を持っていただけるきっかけになりましたら幸いです。



集中瞑想(サマタ瞑想, Focus attention meditation)とは

 呼吸や体感覚など特定のものに焦点を合わせ、意識を集中する瞑想法です。
 選択したもの(呼吸など)に注意を向けて維持することで、注意が散漫になっている状態(思考や意識、心がさまよっている状態、マインドワンダリング、パピーマインドなど)に気づき、気づいたら離れ、再度選択したものに集中する、という繰り返しによって、集中力が養われます。世界中には意識を集中する対象が4-50種類もあるとか!(マインドエクササイズの証明より)
 過去や未来にとらわれることなく、今ここに集中する能力が養われるとされます。

集中瞑想の効果

・脳波計museでの測定では “calm” の状態でした。(museの記事

集中瞑想では他の瞑想法よりもリラックス効果が高まるとのこと。例えば、5-10分間程度、自身の呼吸の数を数えて呼吸に集中する(数息観)だけでもリラックス効果が得られるそうです(マインドエクササイズの証明より)。この結果はmuseでの測定結果とも一致します。



集中瞑想の脳への効果・影響

 集中瞑想の脳への効果・影響については、こちらのレビュー(ref1, World J Radiol., 2014) を参考にまとめました。

1) 注意力ネットワークを活性化

・呼吸への集中瞑想は、高次脳機能の中枢を担う前頭前野 (前頭前皮質、PFC, prefrontal cortex、前頭葉(下の右図の水色の部分)の前側の領域) と認知機能に関わる頭頂葉間の、注意力関連ネットワーク(感覚情報と反応選択を仲介)を活性化しました。
 また体感覚の認識に関与する領域であるの活性化も観察されました (ref2)。

左図 オレンジの部分が前頭前野(前頭前皮質、前頭葉の前側の部分)、右図 黄色の部分が頭頂葉
前頭前野は主に複雑な認知行動の計画、人格の発現、適切な社会的行動の調節に関わっているとされる。頭頂葉は感覚情報の統合を行っており、特に空間感覚と指示の決定を担っている。
Sources : Wikipedia


 額のちょうど内側に位置する前頭前野は、人間で特に大きく発達してる脳領域で、学習・思考・意思決定・認知や人格・社会的行動などの機能を担い、人間を人間たらしめる働きを持つとされます。

 一方で人間は前頭前野が発達したため 他の生物と比較して、
 ・将来を予測して不安を感じたり、
 ・過去を思い返して悔やんだり、
といった『今起こっている出来事以外』にも思考や意識が捉われるようになった、とのことです(マインドエクササイズの証明より)。
 つまり、この前頭前野の働きをうまくコントロールできるようになると、今ここに集中する能力も養われる、と言えます。

・集中瞑想時には洞察瞑想時と比べて、腹側線条体(快感・報酬・意欲・嗜癖・恐怖の情報処理に重要な役割を果たす領域)と視覚野の結合性が安静時よりも上昇していました。
  ↓
 この結合性は、特定の対象に対する意図的な集中に関連する、というこれまでの知見と一致していました (ref3)。


・プレゼンス モジュール(呼吸への集中やボディスキャン瞑想など)では、注意力に関連する脳領域である前帯状皮質(ACC, anterior cingulate cortex)と接続する右側の前頭前野 (PFC) と、下側頭皮質に接続する両側後頭部領域で厚みが増加することが観察されました (ref4)。


2) デフォルトモードネットワーク(DMN)の活性を抑制する

 集中瞑想(Concentration)だけでなく、慈愛の瞑想(Loving-Kindness)、観察瞑想 (Choiceless Awareness) を行った場合でも、瞑想熟練者の脳では

  • 脳のアイドリング状態であるデフォルトモードネットワーク (DMN) に関与する脳領域の内側前頭前野(mPFC)と後帯状皮質(PCC)の活性が抑制
  • 背外側前頭前野(dlPFC、言語処理や他の脳領域との機能的接続に重要で、無意識を意識化する際に活性化する領域とも言われています)の働きを活発化
  • DMNの活動領域とdlPFCの結合が強化

されていることがわかりました (ref5)。

全ての瞑想法で共通して行うこととして、

脳のアイドリング作用であるDMNによって心がさまよいだした状態に気づき
 ↓
呼吸やマントラなどに意識を向けて注意を引き戻すことを繰り返し、
 ↓
注意を持続させること、

を基本としています。

 このような持続的な注意(ビジランス)は、DMNの機能領域 [内側前頭前野(mPFC)と後帯状皮質(PCC)] の抑制と背外側前頭前野(dlPFC)との接続強化、という瞑想によってもたらされる脳の可塑性での変化によるものです。

 つまり『心や思考がさまよったら気づいてその都度戻ること』に慣れ、集中しつづけるための脳回路が鍛えられます。


扁桃体の位置(赤色の部分)
Source : wikimedia

3) ストレス反応スイッチである扁桃体の暴走を抑制する

 呼吸に集中する瞑想では、否定的な感情の減少と扁桃体松村さんの解説ではストレス応答反応の最初のスイッチ、とありました)活性の減少がみられました (ref6)。


【まとめ】集中瞑想がもたらす脳への効果・変化とは?

注意力・集中力が高まり、リラックス効果が得られる

 色々と聞き慣れない脳の部位の名称などが出てきて難解ですが、
科学論文で明らかとなった集中瞑想を行った際に脳内で起こっていることをまとめると、

定めた焦点に集中することで脳の活動領域を限定され
 ↓
注意力に関する脳内のネットワークが強化(前頭前野の一部、頭頂葉、前帯状皮質など)、扁桃体活性の減少
 ↓
注意力・集中力が高まる
 ↓
脳のエネルギーを浪費しているデフォルトモードネットワーク(DMN) が抑えられる
 ↓
脳活動の省エネとなり、結果として脳が休まる状態となる、リラックスする。

ということが起こっていると考えられます。

 またこの集中瞑想でのリラックス効果は、ぼーっとして脳がアイドリング している状態(DMNが活性化)や就寝時(レム睡眠、ノンレム睡眠を繰り返し、覚醒時よりは脳は休まっているものの夢を見たりすることで脳も活動もし続けている状態)よりも高いとのことです。
 いくら寝ても疲れが取れない、という方は呼吸や体感覚に集中する瞑想をしてみると良いかもしれません。呼吸を数えるだけでも、途中でToDoリストが浮かんできたり、思考があちこちさまよう状態に気づけます。気づけたらOK、また呼吸に意識を戻すだけ、です。

 最初に述べたように、これらの細かな脳領域を覚える必要は全くありませんが、なんとなく頭の片隅に置いて、例えば おでこ のあたりなどに意識を向けながら瞑想を実践してみると、いつもとはちょっと違った感じや体験になったりするかもしれません。


 次回は観察瞑想・洞察瞑想の脳への影響についてお話したいと思います。

【連載】マインドフルネス瞑想の種類と効果

 1, 集中瞑想(サマタ瞑想)の効果と脳への影響

 2, 観察瞑想・洞察瞑想(ヴィパッサナー瞑想)の効果と脳への影響

 3, 慈悲の瞑想・慈愛の瞑想(メッタ瞑想)の効果

 

参考文献

  1. “Neural mechanisms of mindfulness and meditation: Evidence from neuroimaging studies. ” William R Marchand, World J Radiol. (2014)
  2. “Neural correlates of focused attention during a brief mindfulness induction.” Janna Dickenson et al., Soc Cogn Affect Neurosci. (2013)
  3. “Open monitoring meditation reduces the involvement of brain regions related to memory function.” Masahiro Fujino et alScientific Reports, (2018) [文献解説]
  4. “Structural plasticity of the social brain: Differential change after socio-affective and cognitive mental training.” Sofie L. Valk et al., Science Advances, (2017)、[文献解説]
  5. “Meditation experience is associated with differences in default mode network activity and connectivity.” Judson A. Brewer et al., Proc Natl Acad Sci USA. (2011) DMNを発見したBrewer教授の論文 [文献解説]
  6. “MBSR vs aerobic exercise in social anxiety: fMRI of emotion regulation of negative self-beliefs.” Philippe Goldin et al., Soc Cogn Affect Neurosci. (2013)

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ABOUTこの記事をかいた人

ライター。 博士号を取得後、日本学術振興会特別研究員・博士研究員・大学教員として教育研究に計10年以上従事(専門は分子生物学)。9割以上が男性の業界で女性が中間管理職として働く難しさを感じつつ、紆余曲折を経て小島美佳さんからマインドフルネスを学ぶ。 現在は心理学や精神世界のエッセンスを科学の言葉で咀嚼して伝える方法を模索中の、瞑想歴1-2年の初心者です。